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時給制ラヴァーズ

第3章 3.うそつきデートの行方

「そういえばいなかったね、車の人」
「……ん?」
「あれ、今車が……」

 遠くまで歩いていってしまったのか、それともここに車を停めてどこかへ関係ないところへ行ってしまったのか。でも今車が揺れた気が。

「……っ!?」

 何気なくその車を窺った瞬間聞こえたその音に、どきりと心臓が飛び跳ねた。
 思わず飛び込むように車の助手席に乗ると、同じようにして慶人も飛び乗ってきた。

「い、今…………聞いた?」
「聞こえた」

 声を潜める俺の短い問いに、やっぱり同じように声を潜めた慶人が短く答える。
 今、確かに聞こえた。車が軋む音、そして声が。
 その声は、聞き間違いじゃなければ……男の声で、男の名前を呼んでいた。
 男っぽい声の女の子とか、男っぽい名前の女の子とか、そういうのを考える暇もないくらい、あからさまでわかりやすいものだった。

「……とりあえず、車出すな」

 ぼそりとそう告げた慶人が俺の答えを待たずに車を発進させ、俺はただ無言で頷いた。
 ……聞こえたのはほんの一瞬だったけど、それは、男が男を求める声、だった。
 駐車場の端に車を停めてなにをしているかなんて、わざわざ説明するまでもない。
 あそこに乗ってたのは、俺たちみたいな偽者ではなく本物の男同士のカップルだったんだ。
 本当の、秘密の逢瀬。

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