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時給制ラヴァーズ

第1章 1.冗談ではないらしい

「そこで考えたんだ。望み通りにいかないような恋人と幸せだってことにすればいいんじゃないかって」
「……ん?」
「愛し合っている恋人がいる。でもその相手とは結婚出来ない。それでも幸せだ。だからしばらくそっとしておいてほしい。だって今のこの状態が幸せだから。っていう様子を見せつけてやればさすがに黙るんじゃないかと思って」
「……もしかして」

 自己紹介代わりの状況説明で、ここまでは俺に関係ない話だと思っていた。けれど、そうじゃないのか? この流れ。そして俺が呼ばれた意味。それってもしかして。
 そう先読みして窺うように視線を送ると、樫間くんは神妙な顔で頷いた。

「時給一万で俺の恋人のふりをしてくれ」
「恋人の、ふり」

 やっぱりか、と妙に納得してしまうくらい、樫間くんは必死というか追い詰められた顔をしている。たぶん家を追われる俺よりもひどい。そんな顔をして突飛ともいえる考えに行き着くしかない程、親からのプレッシャーがすごいんだろう。
 しかし、恋人のふりとは。

「出来れば同居というか同棲してるように見せてほしいけど、それが無理なら親に対してだけでいいから恋人のふりをしてほしいんだ。親に会ってる時間とか、デートしてるふりをする時にはちゃんと金は払う。あと住む所が必要なら部屋を用意する当てはある。それが、俺からのバイトの提案。……どうだろうか?」

 恐い……じゃなくて神妙な顔つきで尋ねられ、その言葉を振り返りながら考える。
 肉体労働でもなければ法律的にやばい仕事でもないのに時給一万というのは破格だと思う。疑問はあれど文句はない。なによりもう一つの条件の方もすごく気になる。

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