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時給制ラヴァーズ

第1章 1.冗談ではないらしい

「……えっと、部屋を用意って?」

 同居というのはわかる。シェアをイメージすればいいんだろうし、それを言えるくらい普通よりも広い部屋に住んでるのかなぁってぐらいで理解は出来る。
 でも、その後のセリフがちょっとよくわからないんだ。

「俺のとこに、ちょうど今空いた部屋があるから、そこを。特別広くはないけど、学生向けのマンションだからそれなりに住みやすいとは思う。家賃も周りに比べれば安いと思うし」
「……ちょっと待って。なにからつっこんだらいいか」

 すごく当たり前のように、なんなら丁寧に説明してくれているけれど前提の部分に引っ掛かって話が入ってこない。

「俺のとこ、とは?」
「一応大家というか。名義的には俺のっていうマンションがあって。そのうちの一室が空いたとこだから、良かったらそこを使ってくれってこと」
「樫間くんマンション持ってんの?」
「つっても四階建ての小さいとこだけど」
「いや、いやいやいや」

 なにをさらりと言ってんだこの人。マンション持ってるとか訳わかんないんだけど。マンションを持ってる時点で大きいも小さいもない。むしろマンションは普通持ち物じゃない。

「なにそれ、樫間くんって金持ちなの?」
「いや親の不動産投資に付き合わされているというか、まあ勉強の一環で一棟任されているというか」

 どうやらご両親がだいぶとんでもない人だというのは見えてきた。そしてそれを任されちゃう樫間くんも十分とんでもない。
 本人は謙遜しているようだけど、学生で大家をしていて、それを普通にこなしている時点でハイスペどころの話じゃない。そりゃあ周りとは空気が違うはずだ。
 そしてそんな育ち方をしていたら、そりゃあ後は奥さんと子供を、と幸せ家族を望まれても仕方ないと思う。ご両親が早く孫をと望む気持ちも正直わからなくもない。樫間くんの子供だったらきっと可愛いだろうし。

 ……でも、それだったら家を追われている俺に時給一万も払って妙なバイトを持ちかけて来るのも頷けるし、俺としちゃそのマンガみたいな非常識な存在はありがたいところ、だけど。

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