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時給制ラヴァーズ

第1章 1.冗談ではないらしい

「えーっと、恋人のふりって、具体的になにするの?」
「まだちゃんとは考えてないけど、親に会う時に幸せですって空気を出しててほしい」

 男同士の恋人ってどんな感じなんだろうって疑問は、どうやら樫間くんも持っていたようだ。発案した本人とはいえ、具体的なビジョンは持っていないらしい。むしろ具体的な案を考えている余裕もなくバイトの話を持ち出す程切羽詰まってるってことだろう。
 確かに今の話を聞くだけで、よほどのプレッシャーをかけられているのだろうと予想はできる。普通とは違って、ずいぶんとハードルの高い過干渉ではあるけれど。

「でも、やっぱ無茶じゃない? いくら幸せそうでも、男の恋人紹介されて認められるかな? 余計お見合い斡旋に火がつかない?」
「そのために藤堂みたいなタイプを城野に頼んだんだ。藤堂は理想通りのちゃんとした見た目だし、親とか大人に気に入られるタイプだろ? 出来るだけ文句をつけるポイントを減らしたかったから。好青年な見た目は大事」

 なんて言われて、改めて自分を見下ろしてみる。
 そうか。それで城野が俺に話を持ってきたのか。
 城野はすごく知り合いが多いけど、どちらかというとやんちゃな見た目の人が多いし、大人受けがいいかと言われればちょっと無理がある。そのタイプの男を連れてきて「恋人です安心してください」はさすがに無茶だろう。

 その点、確かに俺は遊びに行った友達の家でご両親と仲良くなって一緒に夕飯食べたり家族行事に誘われることもある。先生とかにも嫌われる方ではないし、どちらかといえば学級委員タイプだって自覚もある。チャラいというには程遠い人種だし、城野と友達だというのもいつも驚かれる見た目ではある。
 好青年かどうかは別としても、城野はしっかりと樫間くんの条件に合わせたってことなのだろう。

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