テキストサイズ

時給制ラヴァーズ

第7章 7.ヴァージンペーパー

 いつもは硬い顔も声音も、なぜか今は驚くほど柔らかい。

「隣にいて楽でいられることは、ずっと一緒にいるためにはすごく大切なことだと思うんだ」

 ……たぶん、俺が慶人の両親だったら、それが本当に恋人について語られているものなんだと納得するだろう。だって俺が、危うく信じてしまいそうになったから。
 すごく、ドキンとしてしまった。というかバクバクが治まらない。なんという不意打ち。親子の血か。

「な、なかなかいい答えだね」

 どうやら慶人はこういうのもそつなくこなすタイプらしい。つくづく隙がない。
 まんまと返り討ちにされた俺が黙ったのが隙に見えたか、今度は慶人が窺うように俺の顔を覗き込んできた。

「天は? 俺のどこが好き?」
「え、優しいとこ?」
「なんだそれ。ありきたりで嘘くさい」

 質問には即座に答えたのに、慶人はなんだか不満げだ。でも間違いなくそれは本音であって、テキトーな回答なんかじゃないんだ。

「嘘じゃないって。優しいし、かっこいいし、すっごい気遣ってくれるし、でも意外とシャイで照れ屋で、そのくせキザな仕草が似合ってて、親に弱くて顔が恐い」
「最後の方、悪口だろ」
「悪口じゃないよ、そういうとこが俺は好きだもん。そもそもご両親のことを無視し続けるくらいの性格だったら俺たち出会ってないわけだし、俺もここに引っ越してきてないし。なにより相手の要求を一方的に突っぱねるんじゃなくて、少し時間が欲しいって頭を悩ます慶人は優しすぎるくらい優しいんだよ。そういうとこ、すごくいいと思う」

 まあこれは裏の事情だから、ご両親には伝えられない褒め方だけど。
 それでも慶人はお世辞でもなんでもなく優しくて、とてもいい奴だと思う。そりゃしかめ面は恐いけど、それが解けた時の笑顔はとても特別な気がして好きだ。俺だけに気を許してくれている気になるから。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ