テキストサイズ

時給制ラヴァーズ

第7章 7.ヴァージンペーパー

「けーと、ね、慶人って。なんでそんながっついてんの? ねぇ、慶人ってば」

 あくまで「恋人のふり」の俺たちは、なんとなくの暗黙の了解でキスをしない。
 その代わりのように、慶人は最近よく俺の体にキスを落とす。何度も首筋に食いつき、その間にシャツを捲り上げようとするから、その手に手を重ねて止めた。

「……なに?」

 顔を上げた慶人は、表情はいつも通りのクールな顔だけど、頬が微かに上気してて変に色っぽい。不意に、その顔に昼に見た告白の風景が重なった。そのことに胸が痛くなる。
 きっとこういう顔は、ああいう相手にこそ見せるもので、俺が見ているのは不自然なんだ。
 だって、俺はあくまでバイトで恋人のふりをしているだけ。それは慶人が両親からしばらくの間結婚の話をされないようにってためだけのもので。
 その目的が達成されたらこの関係は終わりになって、慶人は誰にも急かされずゆっくりと自分の恋愛が出来るようになる。それは、そもそも友達でもない俺に関係のない話。

 そう思ったら、急に深入りしすぎている自分に気づいてどうしようもなくなった。
 いや、たぶん俺はとっくに気づいていて、気づいていないふりをしていたんだ。
 慶人と俺の間に、名前をつけてその関係をはっきりさせるのが嫌だったから。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ