時給制ラヴァーズその後の短編
第2章 まつり浴衣は夏の華
そして土曜日。
まだ日が落ちきっていない頃に、俺たちは浴衣に着替えて駅前へと繰り出した。
俺はもちろん慶人も浴衣で、柄も色も違うのに赤い帯だけが揃っているからかなんとなく雰囲気が似ていて、密かにペアルックのようだと思ってしまったことはナイショだ。
そんな慶人は、当たり前だけど浴衣姿も似合っていてとてもイケメンで、どう思っているのか顔もクールそのもの。
……本当は、この姿でごつい一眼レフを持っていこうとしていたんだけど、そればっかりは俺が止めた。
見た目がイケメンゆえに、首からカメラをかけている様がすごくシュールだったからだ。
ともあれのんびりと駅前のお祭り会場へ。
提灯の明かりと並ぶ屋台のせいで、見慣れた駅がまるで別空間のようだ。
それほど広くない駅前広場には、思ったよりも多くの出店がひしめきあっていて、ちらほら浴衣の人も見えてだいぶ賑わっている。
いつもとは違う食べ物の匂いとどこかの店のコンプレッサーの音、そして楽しそうな人のざわめきは否が応でも気持ちを高めてくれる。
「うわーこれはテンション上がる!」
「やっぱりカメラ持ってくれば良かったな」
「まあまあ」
確かにいかにも夏の風景って感じで、画にはなりそう。だけどカメラを持ち出したらそれこそ撮影会が始まりそうな勢いだし、今にもカメラを取りに帰りそうな慶人をなだめ、とりあえず目的地を決めることにした。
まずは腹ごしらえ。遊ぶのはそれからだ。腹が減っては戦が出来ぬって言うしね。
「なに食べる? たこ焼き? たこ焼きから?」
「はいはい、たこ焼きが食べたいんだな」
「いや目に付いたもんで」
並ぶ屋台の一番手前に見えた名前で、口の中はもうソース味。それを理解してくれている慶人は、さっさと目当ての屋台に向かい、たこ焼きを一パック手に入れてきてくれた。
てらてらと光るソースがとても美味しそうで、それに視線を奪われている俺に笑いながら差し出してくれる慶人。
「さあたんとお食べ」
「やった。いっただっきまーす」
ありがたく手を合わせ、串が刺さったたこ焼きをひとついただく。