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時給制ラヴァーズその後の短編

第2章 まつり浴衣は夏の華

 熱いのはわかっていたけれど、やっぱりこういうものは一口で食べたい。だからほふほふと口の中に空気を入れて冷ましつつ、出来立てのたこ焼きを堪能した。
 今風の表面を揚げるものとは違うスタンダードなたこ焼きは、生地がふわふわで、嬉しいことに中に入っているタコが大きくて食べ応えがある。

「んーうまいっ!」
「本当に、なんでもうまそうに食うよな、お前って」

 慶人にパックを持たせたままもう一つ頬張って満喫している俺を、慶人が呆れ半分感心半分の目で見てくるから、ならばと次のたこ焼きに串を刺し。

「はい、慶人。あーん」

 それをそのまま慶人の口元へ持っていった。
 一瞬躊躇った慶人だけど、意外と素直に口を開けてくれて、満足してそのまま口の中へたこ焼きを放り込んだ。
 餌を貰う雛鳥のように従順に口を閉じた慶人が次の瞬間眉間にしわを寄せて怖い顔をしたのは、たぶん熱かったからだろう。それこそ子供にやるようにふーふーと冷ましてあげればよかったかもしれない。
 でもそのしかめつらがちょっと面白くて、顔を寄せて感想を求める。

「うまい?」
「……熱い」
「うまい?」
「……うまい」
「よしじゃあもう一個あげよう。あーん」

 熱いと言いながらも派手なリアクションをしない慶人の反応を見たくて、もう一つ串に刺したたこ焼きを目の前に掲げてみたら、半眼で睨まれた上に口元だけで笑われた。

「……天が、火傷した口ん中を舐めてくれるってなら食うけど」
「お、よし、カキ氷食おっか。慶人くんに奢ってあげる」
「そうだな。天も冷やした方がいいよ。顔が赤い」

 俺だけに聞こえる声で言うそれは、たぶんもう食べないという湾曲的な表現だろう。……まさか本気ではないだろうし。
 くすくす笑う慶人の一歩先を行き、残りのたこ焼きを口の中に放り込む。
 シャイかと思えばこうやって平気で口説くようなことを言ってくるし、未だにイケメンの思考はよくわからない。

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