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時給制ラヴァーズその後の短編

第2章 まつり浴衣は夏の華

 とりあえず水分補給も兼ねて近場にあったかき氷を食べつつ次の行き先を考える。
 ここから見るだけでもたくさんの屋台があって、子供みたいにわくわくしてしまう。隣の慶人も、俺がなにかするたびスマホのカメラの連射音を響かせるのはいかがなものかとは思うけど、楽しそうだから良しとしよう。

「んー、イカ焼き食べたいなぁ。いやでもここは一回お祭り的にわたあめを挟んだ方が……けど、甘いのって言ったら焼きトウモロコシも捨てがたい。でもやっぱ焼きそばかなぁ。あっベビーカステラはお土産に買ってこう」
「食べ歩きもいいけど、その前にここんとこついてる」
「あ、ありがと……あ」

 スプーンの形をしたストローを咥えながら考え込んでいる俺の口の端をぐいっと拭い、慶人はその指を自分で舐めてみせた。
 ちろりと覗いた舌が妙にセクシャルで、思わず照れてしまったのがわかったんだろう。慶人が目を細めて少しイジワルっぽく笑った。

「舐めさせた方が良かった?」
「よくない」
「意外とむっつりなのは天の方かもな」
「なんのことだか」

 慶人が言っているのは、たぶん恋人のふりとしてデートした時のことだろう。慶人の口元についたソフトクリームを、俺が拭った上で舐めさせた件。あれは、本当の恋人でもないのにその指を俺が舐めるのは違うだろうと思って本人に舐めさせただけであって、深い意味があったわけじゃない。

 と、そこまで考えてから気がついた。
 ……そうか。今は本当の恋人同士だから……。

「熱いなら、かき氷もう一つ食べるか?」
「……そんな赤い?」
「耳まで。正直とても可愛いからあれこれ奢ってあげたいんだけど」
「あのさ、俺のこと『可愛い』なんて言うの、慶人くらいだよ」
「俺以外に言われたいのか?」
「あーもう降参! 可愛い俺が奢られてあげるから次行こう次」

 ナチュラルにクールな顔で口説いてくる慶人に敵うわけはなく、これ以上話を長引かせると俺がどんどん不利になるのはわかりきったことで。
 だって子供の頃以外に「可愛い」なんて褒め言葉をかけられたことがないから、未だにどう返していいかわからず妙に照れてしまうんだ。

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