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時給制ラヴァーズその後の短編

第2章 まつり浴衣は夏の華

「あ! あー……」
「なんだよ」
「なんでもない」

 人より高い身長を有効利用して首を巡らせ、さっそく目に付いたのはチョコバナナ。
 美味しそうではあるけれど、そんなの食べてむっつりの慶人が興奮したら大変だ。俺だって日々成長しているわけで、見えている地雷を踏みに行くような無謀な真似はしない。

 だからそれが慶人の目に入らないようにさりげなく方向転換をし、他のデザートを探す。
 かき氷はさっき食べたし、クレープは違う時に食べられるから今じゃなくてもいいし、わたあめはデザートって感じじゃない。
 甘くて、なにかお祭りらしい食べ物は……。

「あ、あれにしよ。あんず飴」

 見えた屋台を指さして、我ながらいい案だと嬉しくなる。
 りんご飴ほどに大きくないから食べやすそうだし、いかにもお祭りの食べ物っぽい。なにより氷で冷やされているから冷たくて、暑い今にぴったりだ。
 慶人はもうお腹がいっぱいでいらないと言うから、俺だけ買うことにした。
 水飴がてらてらと屋台の明かりで輝いてとても美味しそう。あーんと一口で食べようとして、思ったサイズ感と違うことに気づいた。

「ん、あれ? 意外とおっきくて口に入んない。あ、やば、垂れてきた。舐めちゃえ」
「……お前それわざとやってるよな?」
「は? わっ、垂れる!」

 気温が高いせいで水飴が思ったより早く溶けてきて、慌てて舌で舐め取る。そうしているうちに今度は反対側が垂れてきて、あっという間に割り箸を持つ指先がベタベタになった。あ、やばい、指輪につきそう。指しゃぶったらさすがに行儀悪いかな。

「うぅ、ベタベタ……。硬いかと思ったら意外ととろけるんだね。でもこれぞお祭りって感じでうまいよ。慶人も一口ぐらい食う?」
「……いらない」

 水飴を舐め取るのに必死で肝心のあんずまで時間はかかったけど、それでも甘酸っぱくて美味しかったから一口くらいどうかと勧めてみても、ものすごく微妙に苦い顔で断られた。
 さすがに俺がこれだけ舐めたものはイヤだったか。

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