時給制ラヴァーズその後の短編
第2章 まつり浴衣は夏の華
「ただいまー。さて、と……おわ?!」
「家に帰ってきたんだから『待て』は解除だろ?」
日が暮れても蒸し暑い空気と、なにより後ろからのプレッシャーに焦りながらなんとか辿り着いた家。
その家に一歩足を踏み入れた途端、慶人に背中を押されて部屋に連れ込まれた。というか押し込まれて、ベッドに押し倒された。
その上で俺が手に持っていたうちわや射的で取った戦利品にお面を次々に放り投げてベッドの下に落とし、身一つにしてからリモコンでクーラーを入れて、改めて覆い被さってくる慶人。
流れるように鮮やかで、思わず見惚れてしまう手際の良さだ。
「あ、待って、俺汗くさい」
「待たない」
軽いキスに続いて、まだ甘さの残る深いキス。それからすぐに首筋に移った唇に、はっとして肩を押したけど聞いてもらえなかった。
外を歩いていた時はそれほど気にならなかったけど、室内に入って張り付く浴衣を意識して急に気になったんだ。
クーラーがまだ効いていないせいで、むわっと篭った空気がまるで外のようで。
そんなところで、汗を掻いて張り付いた浴衣の隙間から手を差し込まれると、まるですごくいけないことをしているような気持ちになってしまう。
すごく、がっついているみたい。
「ん……んぅ」
それからまた、俺の言葉を封じるように激しいキスで唇を塞がれる。
さっきしたキスがどれだけキス魔の我慢の上に成り立っていたか、その噛みつくような深い口づけで思い知らされた。
どうやら俺はまた、無意識のうちに慶人を煽ってしまったらしい。完全に獣が目覚めてる。
だっていつもならもっと余裕のある意地悪というか、優しさがある意地悪で俺をいじめるのが好きな慶人が、切羽詰まったように愛撫より慣らすのを優先する時は、色々とやばい時と決まっているんだ。
普段クールな分、反動がすごいんだよな、慶人の場合。