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時給制ラヴァーズその後の短編

第2章 まつり浴衣は夏の華

「あっつ……」
「待ってな。今タオル持ってくる」

 嵐のような一時が終わって、汗だくでベッドに沈み込む俺の浴衣を整え、慶人が部屋から出ていこうとしたからちょっと待ってと呼び止めた。

「ていうかシャワー浴びたい」

 汗掻いたし疲れたし、シャワー浴びてさっぱりしたいんだけど、という俺の当然の訴えに、けれど慶人はしばし考え込むように動きを止めて。

「……もったいないからもうちょっとそのままで」

 そんな言葉を残して部屋から出ていった。世話を焼いてくれるわりに、浴衣を脱がしてくれる気はないらしい。
 すぐに冷たく濡らしたタオルを持ってきてくれた慶人からそれを受け取って、体を起こしてまずは顔を拭いた。これだけでもだいぶさっぱりする。
 その間にも俺の体を温かくしたタオルで拭いてくれる慶人の甲斐甲斐しさと、その上できちんと浴衣を着せてくれる丁寧さに笑いが洩れた。

「慶人って、ほんと浴衣好きだよね」
「だから違うって、何度も言ってんだろ」

 汗だくの首の周りを拭きながら、笑いながら叩いた軽口に対して、わりと真面目な口調で怒られた。
 むしろだいぶむっとされている。

「え、でも浴衣好きじゃん? 着ると興奮するし、今実際してたし。これで好きじゃないって嘘でしょ」
「違う。好きなのはお前」

 さらりと。そしてはっきりと。
 突然とてもストレートな告白を受けた。

「浴衣がお前の魅力を引き立ててんのは事実だけど、浴衣が特別好きなわけじゃない。お前が着てるからいいんだよ。……この前も言ったけど」
「あーそういえば聞いたけど」
「実感はしてないんだろ、どうせ」

 そう言って肩をすくめた慶人は、呆れというか諦めを含んだため息を吐く。
 確かに旅館で浴衣を着た時に同じようなことを言われた。浴衣じゃなくて、浴衣を着た俺がいいんだって。
 だけど、だからこそ俺は疑問なんだ。

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