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時給制ラヴァーズその後の短編

第2章 まつり浴衣は夏の華

「行く。デートしよう」
「じゃあ決まり」

 それで話は終わり、とはさすがにいかなくて、そのまま体重をかけられソファーの上に押し倒される。
 それからまた俺より温度の低い唇が首筋に張り付いて、笑いながらそれから逃れるように身を捩った。

「冷たいって」
「じゃあ天があっためて」

 わざと皮膚の薄いところに唇をくっつけていじめる慶人の返しに、思わず抵抗をやめる。
 なにその可愛いの。
 このクールな見た目で「あっためて」なんて可愛らしいセリフ、卑怯だろ。

「じゃあえっと……バイト、する?」
「ニヤニヤすんな」

 それは少し前、俺たちの関係がまだちゃんとした恋人となる前のこと。
 バイトとして恋人同士のふりをするために一緒に暮らしていた時の、言うなれば「エッチする?」という意味の隠語のようなもの。
 それをさっきのバイトという言葉から思い出して聞いてみたら、思ったよりも顔が笑ってしまっていたらしい。慶人が少しむっとしたように目を細め、口元が笑っている俺を咎める。

「……わかった。じゃあバイト、な」

 だけどすぐに気持ちを切り替えたのか、俺の手首を掴んで引っ張り立たせると、そのまま慶人の部屋へと向かった。

「言ったからにはちゃんと給料払うからレポート出せよ?」
「う、そう来たか」

 自分で言った冗談のせいとはいえ、これじゃあ慶人が雇用主になってしまう。そうなると俺はとても立場が弱くなり、つまりとてもまずいことになるのは火をみるより明らかだ。
 レポートなんて書かされてたまるか。

「いやいや、恋人同士でお金払うとかやめよう。売春になっちゃうからね。ボクらは健全に愛し合おう」
「不健全がいい」

 可愛い冗談なんだから大人になろうよと説得しようとしたのに。慌てる俺を部屋に放り込んだ慶人の言葉のストレートさに、なぜだかきゅんとしてしまった俺の負け。
 結局のところ雇用主なんかじゃなくても俺は慶人にとても弱くて、つまりなにを言いたいかというと……レポートは勘弁してくださいってこと。

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