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キス魔は浴衣で燃える

第2章 2.到着

「せっかくだし風呂行こっか」

 いちゃいちゃは後でも出来る。どうせだったら慶人がくれたこのプレゼントを大いに楽しまないと。
 だって温泉に来たんだ。まずは温泉を楽しまないでどうするって話。
 仲居さんに教えてもらった場所から浴衣を取り出し、慶人の分も抱えてさあ行こうと振り返ったら、少し不思議そうな顔をされた。

「風呂ならそこにあるけど」
「温泉来たらとりあえず大浴場でしょ」

 慶人が指したのは部屋の奥。俺が向かおうとしているのは上の階にある大浴場。これもさっき仲居さんに教えてもらったものだ。
 もちろん部屋にある温泉も後で楽しむけど、まずは広い温泉を存分に堪能したいと思ったのに、なぜか慶人は座ったままで。瞳を丸めてきょとんと俺を見上げている。

「……いいのか?」
「なんで? 慶人、銭湯とか苦手なタイプ?」
「いや、お前が」
「ん? なんかわかんないけど、とりあえず行こうよ。まだ空いてるよ、きっと」

 潔癖性ってほど潔癖じゃなかったと思うけど、ためらう理由がよくわからない。
 それでも俺が手を伸ばしたらすんなりとその手を取って立ち上がったから、よっぽど嫌ってわけでもないみたいだ。

 わからないながらに行けるならいいやと手を引っ張って大浴場へ向かうエレベーターの中で、他になにがあるかのチェックも怠らない。
 お土産物屋さんはロビーの奥で、ゲームコーナーは大浴場の近くにあるらしい。卓球でもあったらやってみたいんだけどなぁなんて喋りながら着いた大浴場、詳しく言えばその脱衣所で、一つ問題が起きた。

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