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キス魔は浴衣で燃える

第2章 2.到着

「……」
「だから言ったろ。いいのかって」
「あー……」

 服を脱いで気がついたのは、体についたキスマーク。虫さされとは言いがたい小さな鬱血が点々とついていて、思わず隠してしまった。
 いかにも温泉って感じの脱衣所はオシャレな琉球畳と籐の長いす、そして脱いだものを入れておくカゴがたくさん並んでいる明るい空間で、だからこそ今の自分の体がものすごく浮いて見える。

「露天風呂付きの部屋にしたからいいかと思って……悪かったよ」
「いや、気づかなかった俺も悪いし。んー」

 どうやらつけた自覚があるらしい慶人が謝ってくるけど、まったくこれっぽっちもその可能性が思い当たらなかった自分の責任でもある。
 というか、ここまでキスマークがつけられていることに気づかなかったのがどうかと思う。
 まあシャワーを浴びる時だって、こんな風にマジマジと自分の体を検分することなんてないし、仕方なかったのかもしれない。ということにしておこう。

 とりあえず周りを見回してみると、俺たちの他に人気はないようだ。カゴも使われている形跡がないのなら……いっか。

「誰か入ってきたら入ってきた時に考えよう。ってことで、俺いっちばーん」
「相変わらずポジティブだなお前って」

 さくっと切り替えて服を脱ぎ丸めてカゴに突っ込むと、タオル一つ手に取り、いざ浴場へ。がらりと戸を開ければ温泉独特の匂いがして、余計テンションが上がってきた。広い風呂ってだけでわくわくするのに、温泉で貸し切りとなったらはしゃがない方がおかしいと思う。

 ゆったりと広い内湯と、その向こうには眺望の良さそうな雰囲気のある露天風呂も見える。時間が早いからかどちらにも人はおらず、見事な二人占め状態だ。
 とはいえそのまま飛び込むような真似はせず、まずは並んで体を洗う。

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