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キス魔は浴衣で燃える

第2章 2.到着

「慶人さん、お背中流しましょうか」
「……いい」

 普段はこんな風に二人で風呂に入ることなんてないし、たまにはそういうのも旅行っぽくていいんじゃないかと思ったんだけど。
 ちろりと横目で俺を見た慶人は、その目を細めて唸るように断ってきた。

「え、なんで。背中くらい……って、あれ慶人どうしたのこの傷。すげー痛そう。引っかいたの?」
「お前がな」

 ご奉仕しますよ、と泡立ったタオルを手に背中を覗き込んでみたら、なんだか痛そうな引っかき傷を見つけてしまった。どうしたのと指先で辿ってみると、慶人は身を捩って背中を隠すようにこちらを向く。そして窺うようなじと目。
 って、俺?

「あ、え、俺が……?」
「覚えてないのか?」

 肩をすくめて言う慶人に首を傾げながら考える。俺が傷つけたって、別にいじめたりなんかしてないし、そんな覚えが……あった。俺に残されたキスマークと同じ類のそれ。
 言われて思い返せば昨日、確かに少しばかり引っかいたかもしれない。痛みと快感がない混ぜになって、手を回した背中に爪を立てたのは覚えている。
 けどその時は夢中だったし、まさかこんなに傷になっているとは。

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