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キス魔は浴衣で燃える

第3章 3.海

「……お前ってさ、誰にでもそういう態度なの?」

 引いた波で湿った砂に足跡を付けて、そのままなにか字でも書こうかと足を引きずっていたら、不意に慶人が声のトーンを落とした。
 だから立ち止まり、振り返って首を傾げる。

「そういうって?」
「たとえば他の誰かに同じことされても許す?」
「え」

 いつにない真面目なトーンの慶人が、笑顔もなにもないままじっと俺を見ている。
 道路の方から洩れる明かりに照らされた慶人は少し怒っているような、悲しんでいるような、複雑な色を視線に乗せていた。

「誰かに押し倒されて、無理矢理ヤられても、俺と同じように簡単に許しちゃうのかなって」
「それって結構失礼じゃない?」

 言い方は軽くしたつもりだったけど、むっとしたのが声に滲んでしまったかもしれない。
 でも、やっぱりひどいと思うんだ。
 だってあれは慶人だったから。知らない誰かじゃなく、普段を知っている慶人だから、あの行動にもちゃんと理由があったんだろうと思った。
 いや、たとえその時に衝動に身を任せたとはいえ、そうなる原因と理由があったからこその行動で、決して相手が誰だって成立する話じゃないんだ。もしあれが他の誰かだったら、俺だってそれなりの態度を取るに決まってる。
 だけど慶人の言い方じゃ、まるで俺が誰彼かまわず受け入れてしまうような考えなしみたいじゃないか。

 そうやって怒る俺に、慶人はすぐに眉を下げて唇を噛んだ。
 そして小さな声で「ごめん」と口にした慶人は、俺の手を取って近くの岩場まで導いた。ちょうどいい大きさの岩に腰を下ろし、きちんと顔の見える位置まで近づく。そして改めて手を握った。

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