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キス魔は浴衣で燃える

第3章 3.海

「たまに心配になるんだ。お前って煙みたいだから、今ここにいるのはたまたまで、明日には誰か知らない奴の隣で笑ってるんじゃないかって」
「……煙?」

 俺の手を握ったまま慶人が苦笑いで言うそのたとえはぴんとこない。
 煙。俺が?

「そこにあるのに掴めない、ってとこが似てるから」
「掴み所がないってこと?」
「そうじゃなくて、……しっかり掴んでおきたいのに、なかなか俺のものになってくれないってこと」

 慶人が握っているのと反対側の手をぐーにしたりぱーにしたりして、やっぱりいまいちぴんとこなくて首を傾げる。

「俺、慶人のものだと思うんだけどなぁ」

 だってそんなの言うまでもない。あのベッドの上で告白されて、それに応えた時から俺は慶人のものだと決まったんじゃないのか。
 それをなんで悩むのか俺にはわからない。
 そうやって素直に疑問を告げたら、なぜか力一杯抱き締められた。

「慶人?」
「……自分の中にこんな煮えたぎるみたいな思いがあるなんて、お前に会うまで知らなかった」

 ぎゅうぎゅうと痛いくらい力強く抱き締めてくる慶人の熱が、薄い浴衣越しに伝わる。
 一応周りを見回して、人気がないのを確かめてから俺もそっと背中に手を回した。

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