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キス魔は浴衣で燃える

第3章 3.海

「……俺さぁ、正直言って、慶人がどうしてそこまで俺のことを良く言ってくれるのかわかんないんだよね」

 そうやって抱き合ったまま、俺は小さくため息をついて本音を漏らす。俺から見える慶人越しの景色の中だけでも大勢の人がいて、その中にはもっといい人がいっぱいいるはずなんだ。
 もっとお似合いで、もっと慶人に好きになってもらえそうな人がたくさん。
 それなのにどうしてそれが俺なのか、俺は未だによくわからない。

「たとえばトラックに轢かれそうになったところを助けたとか、悪い奴から守ったとか、そういうのがあるならわかるんだけど」

 くくっと小さな笑い。
 ふざけたわけではないんだけど、それでもたとえがたとえだったからか、慶人が微かな笑い声を立てて愛しげに俺の背中を撫でた。

「そんなこと言うなら、天はものすごいピンチを救ってくれたんだけど?」
「でも俺特になんにもしてないよ?」
「……そういうとこ」

 俺がしたことと言えば、バイトで恋人をして、家に住まわせてもらったくらい。あんまり人助けって感覚もないし、そもそもがバイトとして自分のためにやったことだし。
 特に好かれるような要素はなかったと思うんだけど、とやっぱりしっくりきていない俺に対し、慶人はもう一度背中を撫でてから嘆息した。

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