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キス魔は浴衣で燃える

第3章 3.海

「天って、鈍いのか自己評価が低いのか、よくわかんないな」

 そして手を緩め、少しだけ距離を取った慶人が、今度は俺の頬を両手で包んでむぎゅーっと潰してきた。でも通り過ぎた車のライトで照らされた慶人の顔は、ひどく優しい微笑みに形作られている。

「お前がどれだけ俺に大切な気持ちをくれたのか、言葉じゃ伝えられないよ」

 頬を潰されたせいで尖った唇にキス一つ。波が行って帰る音の間にもう一つ。

「だからこの思いが少しでも伝われーってキスしたくなんの」
「だからキス魔?」

 今度はこくんと頷き一つ。
 伝えたい言葉がキス一つ、マーク一つに形を変えて俺の体に刻まれてる。
 それなら俺は、俺が思っている以上に慶人のものであり、慶人のものでしかないんだ。

「傍にいたい。傍にいてほしい。もっと色んな表情を見てみたいし、……あとエロいことしたい」

 ぼそりと付け足された最後の言葉は、残念ながらこの至近距離で聞き逃すことはなく。

「こんな風に次々と色んな欲求が沸いてくるのはお前に対してだけなんだ」

 愛しげに頬を撫でる指は、そのまま唇へと移り、感触を楽しむように端から端までなぞられた。
 なんともセクシャルな仕草で、そのくせ表情は大好きなぬいぐるみを抱きしめる子供みたいな愛情に溢れているから視線が外せなくなる。

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