テキストサイズ

キス魔は浴衣で燃える

第3章 3.海

「天はどうして俺といるの?」
「え、考えたことない」

 単調な波の音をBGMに、慶人が声を潜めて聞いてくるそれは、単純だけど難しい問いかけ。
 予想していなかったそれに思わず飛び出た俺の言葉を聞いて、顔を寄せた慶人が柔らかく笑う。

「俺のこと好き?」
「好きだよ。……けど、慶人の言うような気持ちとはちょっと違うのかも」

 好きだとは思うけど、自信はない、と言ったらがっかりされるだろうか。
 でも慶人のこんな思いを聞いて、俺も一緒ってならないのは申し訳なくもあり、自分に対してどうなのと思う点でもあり。

「好きって正直よくわかんなくてさ、だから逆に慶人になにかされたらイヤなことあるかなって色々考えたんだけど特に思いつかなくて」

 これでも考えてるんだ。
 男友達の好きと恋愛の意味の好きの違い。もっと言えば、他の誰かに対してと慶人に対しての『好き』にどういう違いがあるのか。それがただの『好意』ではなく『好き』という恋愛感情だと、どうしたら線引きが出来るのかって。
 でも考えれば考えるほどごちゃごちゃしてしまって、だから『好き』がわからないなら『嫌い』について考えてみようと思った。
 でもなかった。慶人に嫌いなとこなんて思いつかなくて。

「じゃあそれって、慶人にならなにされてもいいってことなのかなって」
「ぶっ……ごほっごほっ!」

 そういうことじゃないかなとぼんやりした答えを口にする俺に、なぜか慶人が突然噴き出してむせだした。しばらくそうやってむせて、それから驚く俺に涙目を向けてくる。
 ……俺、そんなに変なことを言っただろうか。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ