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キス魔は浴衣で燃える

第4章 4.ふたり

「……やだ?」

 さっきの俺と同じように、俺をじっと見たまま動かない慶人の顔を覗き込み窺うと、まさか、と即座に返ってきた。

「じゃあなんでそんな顔……」
「お前、自分から『したい』って言ったの初めてだって知ってる?」
「え、そうだっけ? 結構誘ってたと思うんだけど」

 たとえば慶人が暴走した後。二回目は俺から誘ったし、これまでだって何回かあるはず。でも慶人は違うと首を振る。

「いつもは俺を気遣って声をかけてくれてるだろ? 自分の気持ちで『したい』と思って言ってくれたのは初めてだよ」

 俺よりも俺のことをわかっている慶人が握った手に力を込めて唇を寄せた。
 ああ、わかる。その顔は嬉しいのをこらえてる顔だ。

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