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キス魔は浴衣で燃える

第5章 5.朝

「止まらないのは浴衣のせいじゃなくて?」

 だからちょっとからかうように背中をぽんぽん叩いてやったら、慶人の動きが止まった。それから妙に強い力で体を離されてちょっと焦る。

「あ、怒った?」
「一応言っておくけど、浴衣自体がいいんじゃなくて、浴衣を着てるお前がいいんだからな?」
「……それって同じじゃなくて?」
「全然違う。自覚してないのか?」

 さっきまでの寝ぼけ眼はどこへやら。
 腹筋の力で起き上がった慶人は、口をへの字に曲げて俺を見下ろした。その態度の理由がわからなくて、とりあえず同じように起き上がって慶人と向かい合わせになるように座ってみる。

「お前って、本当自分に対しての周りの目にとことん鈍いよな」

 さっきとは違う、呆れたようなでかいため息。
 それから慶人はちょっと困ったように俺を見て肩をすくめた。

「天はよく俺のことを『かっこいい』って言ってくれるけど、むしろお前が普通に『かっこいい』部類なんだぞ? 整った顔に触り心地のいい髪、スタイルもいいし笑顔も輝いてるしいつも明るいし人見知りしないし最高だろ。……身長だってお前の方が高いし」

 くしゃりと寝癖のついた髪を掻き乱して、慶人は少し怒ったように理由を並べ立てる。でも最後に付け足された言葉だけは俺から目を逸らしぼそりとした口調だったから余計に耳についてしまった。
 身長。そりゃ俺の方が慶人よりちょっとだけ高い、けど。

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