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フラワーアレンジメント

第1章 フラワーアレンジメント

 ⑨

「これ、資料です」

「あ、ありがとう…
 うんとねぇ、だいたい10軒は紹介できるけど…」

「え、10軒もですかぁ、それは有り難い」

「うん、飲食店が5軒、美容室が3軒、それに歯医者に整骨院かなぁ」

「マジっすかぁ」

「うん、マジっす」

 つい、昔の体育会系のノリの口調になってしまったのだが、彼女もノッて応えてくれ…
 そしてまた、それが、今まで抱いていた彼女のイメージを緩めてくれたのだ。

「でも、なんで?…」

 そう、いくら今まで定期的な契約をしてくれていたとはいえ、今回、何で、ほぼ初対面の俺にこうまでしてくれるのか?…
 そんな思いを訊いてみる。


「うーん、そうねぇ…

 それは…
 アナタの…
 
 和也さんの…

 フラワーアレンジメントのコーディネーターとしてのセンスに…
 惚れたからかなぁ…」


「え…」

 それは思いも依らないほどの嬉しい言葉であり、コーディネーター冥利に尽きる最大限の褒め言葉でもある…

「うん、ほら、前回から突然ガラっと変わったから…」

 響子さん、いや、彼女はそう言うのだが、今までの経験でいうとそんなガラっと変わったはずは無く、いや、無いし、絶対にそんなコーディネーターの違い等を云われた事も無いのだ…
 そしてまず、それ程の違いが露骨に出てしまうのは花屋経営としての失敗といえるから。


 例えセンスを問われるフラワーアレンジメントとはいえ…

 花屋としての店舗販売をしているわけだし、ある意味フラワーアレンジメントは花屋の看板メニューであり、代名詞的な存在であるから…

 定期的に…

 いつも安定したセンスのモノをお客様に提供できなければ、その花屋は二流といえるのだ…

 そしてそれがコーディネーターのプライドであり…
 花屋のプライドなのである。

 アレンジメントのコンテストに出品するのとは訳が違うのだ…

 だからこそ、数多く提供するという事はアレンジメントコーディネーターも数人いる訳であり、その各々の個性の違いはあれども、万人受けをしなくては、失格なのだ。

 そしてウチに限っては…
 その違いの差は僅かな筈である。

 だが…

 響子さんはその違いをより敏感に察知をし…

 最大の賛辞と評価をしてくれ…

 このコーディネーター冥利に尽きる褒め言葉を言ってくれているのだ…




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