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フラワーアレンジメント

第1章 フラワーアレンジメント

 ⑧

 そう、田舎なのだ…

 区画整理や幹線道路整備、鉄道路線の充実により人口が約20万人都市になったのだが、いや、ようやくなったのだが…
 所詮は田舎街なのであった。

 そして、気の利いた感じの飲食店等はほぼ一カ所の繁華街に集中し、しかも優良店は数軒しかないので、結構な確率で知人等とブッキングしてしまうのである…

 だから、田舎故ならぬ…

 田舎にありがちな…

 面白おかしくよからぬ噂を立てる輩が沢山いるのだ。

 そして、様々な噂話しは後が尽きない程に流布もしているのも…
 事実であった。

 だからこそ…

 だからこその、この響子さんの夫であるこの街での一番の建設会社社長の夜遊びの噂も…

 愛人の噂も…

 響子さんに子供が出来なくて、その愛人に子供を等々…
 そんな様々な噂話しが走り回り、こんな俺の耳にも入ってくるのである。


『変な噂立てられるのも嫌だから、少しだけ遠出しましょうね…』
 響子さんのこの言葉は仕方なく、至極最もでもあるのだ。

 そして響子さんの運転で、約40分の距離にある、県庁所在地である政令指定都市にクルマは快調に飛ばしていた…

「もう、わたしは何かあったらすぐこの街に来るのよ…
 本当に田舎街はさぁ…」

 まるで過去に何かがあったかの様な口調で呟いてくる…

「それに運転大好きだから、全然、この距離は苦にならないし…」

「そうですよねぇ…」

「和也さんだってそうでしょう?」

 確かに…

 昔、そこそこ、テキトーに遊んでいた頃はよく通ってはいた…
 いちおうは50万人都市だから、何でも揃ってはいるから。

 そして俺達は、今流行の『モダン和食』のお店に入る。

「ここは個室があるから…」
 響子さんはそう言い、自分の名前を告げ、案内してもらう。

 どうやら、予約をしていてくれたみたいであった…

「ランチコースでいい?」

「はい…」

 本来ならば、こちら側が接待的に段取らなければいけないのだが…
 全ては後手となってしまっていた。

 いや、そもそも地元を出ると想定してはいなかったから…
 だがしかし、この遠征は正解で、正論であったのだ。

 そして接待のはずのランチ会食は…

 すっかり響子さんのペースの…

 ランチデートの様相となっていく…

 だが、これは…

 嬉しい誤算ともいえた…



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