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フラワーアレンジメント

第1章 フラワーアレンジメント

 ⑦

 次の午後12時半過ぎに、待ち合わせのエステサロンに到着した。

 約束の時間前なのだが、既に響子オーナーは待っていた。

「あ、すいません、お待たせしました」

「あら和也さん、まだ、30分も時間前ですよ…」

 でも…
 きっとこの位の時間に来るだろうなぁって思っていたの…
 と、彼女はそう笑みを浮かべ、いや、美しい笑みを浮かべてそう言った。

「じゃ、ちょっと商談に出掛けてきますから…」
 エステサロンの受付けスタッフにそう告げ、外に出る。

「あ、和也さん、わたしのクルマで行きましょうよ」
 そう言って、駐車場に停まっている、赤いアルファロメオを指差した。

「え、いや、でも…」

「ううん、いいの、わたし運転大好きなんで…
 気になさらないで…」

「あ、は、はい…」

「それに和也さんの運転だと…」

 彼女はそこで俺の顔を見つめ…

「どこかに連れて行かれちゃいそうだしぃ…」
 と、満面に笑みを浮かべ、そう囁いてきた。

「あ、い、いや、それ…は…」

 ドキドキドキドキ…
 また、撃ち抜かれ、いや、撃沈してしまう。

 まるで…

 まるで…

 俺の心の中の全てを見透かされ…

 そして…

 昨夜の一人慰めまでもが…

 バレているのではないのか…

 そんな錯覚まで感じてきていた…

 それに…

 和也さん…

 今日、いきなり、そんな親しみ溢れた感じで名前をさん付けで呼ばれてもいた…
 いや、呼ばれていた事に、さっき気づいたのだ。

 ヤバい…

 これがまた、ヤバい、ヤバかったのだ…
 そしてそれが更に激しく、俺の心を揺さぶってくる。

 和也さん…

 名前で呼ばれたのなんて…

 何年ぶりだろうか…

 子供が生まれて、ちょうど10年…

 いつの間にかに『パパ』そして
『ママ』としか呼ばれなく、呼ばなくなっていた…
 だからこそ、余計に新鮮な響きであったのだ。

 そして…

『どこかに連れて行かれちゃいそうだしぃ…』

 本当にまるで…

 初めてデートする二人みたいじゃないか…


「変な噂立てられるのも嫌だから、少しだけ遠出しましょうね…」

 田舎だから…

 彼女は、いや、響子さんはそう呟き、赤いアルファロメオを走り出させた。

    

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