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お題小説 labyrinth(心の迷宮)

第1章 ラビリンス(labyrinth)

 18

 それにわたしはもう、双子だという事実を疑っては、いや、信じていた。

 だって双子だと信じれば…
 彼、いや弟の蒼との今夜の事が、ううん、色々な全ての辻褄が合うのだから。

 いや、信じざるを得ないのだ…


 そんな事を思っていると…
「だったらあの風鈴の音はなんなんだろうか?」
 と、訊いてくる。

「きっと、昔、風鈴があって、どこかでよく鳴っていたのよ…」
 わたしはそう簡単に言う。

「え、そ、そんなもんなの?」

「うんそうよ、だってさ、アナタもそうだと思うけどさ…
 小さい時にさぁ、色々な想いや記憶を無理矢理に封印しちゃったんでしょう?」

「あ、うん、多分…」

「そうなんだもの、だから今更さ、色々考えても分からないわよ」
 わたしは軽く言い放つ。

 だけど、今のわたしにはうっすらと記憶が蘇っていた…
 親子四人で暮らしていた3歳までの家には風鈴があり、一年中、風に揺れて鈴の音を奏でていたのだ…と。

 そしてその風鈴、鈴の音は、あの頃の家族の僅かな時間の幸せの象徴の音として、わたしと弟、蒼の記憶の奥深くに刻まれているのだろう…と。

 つまり風鈴の鈴の音は、わたし達、元家族のレクイエム的な音といえ…
 わたしにとっての、いや、多分、弟にとっても、心の迷宮へ迷い込んでいくきっかけの誘いの音でもあると思われた。

「それにさ、たまたま今までさ、戸籍謄本とか見る機会がなかったからさ、この事を知らなかっただけだしね」
 わたしはそう自分に云い聞かせる。

 そうじゃないと、この心の騒めきを押さえ切れなくなりそうだから…

 それにそんなことよりも…
 もっと、もっと、いや、もの凄く大変な想いが湧いてきていたから。

 
「そ、それよりもさ…」
 わたしは蒼に正対し、話しをしていく。

 そう、それよりも、ううん、なによりも双子という事実を知り、そしてそれを信じて認めた今、もっともっと、いや、最も重要で、重大な、最優先に解決すべき問題が湧いてきた…
 いや、目の前に大きく立ち塞がってきていたのである。

 それは…

「ねぇ、本当にわたし達は…双子の姉弟なのよね」
 一応、念を押す。

「うん、もう間違いようがない…真実…」

「…て事はさぁ…
 当然、血が繋がっているって事よね?」

「うんそうだよ…あっ…」
 
 蒼も気付いたようだ…


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