
俊光と菜子の、ホントはどうでもいい番外編
第6章 その5
――十数年前。
俺が仕事から家に帰ってきたら、
「菜子っ、ペッしなさいっ!」
「おかーさー、やぁーやっ。モグモグ」
「ダメっ。ささは、かざるものだぞっ」
「おにーちゃー、やぁーやっ」
二歳の愛娘が、七夕の笹を食べているという、シュールな画が目に飛び込んできた。
五歳の俊光も、美都子と一緒に笹を取り上げようとしているが、菜子はしぶとく、モグモグをやめない。
ただ事じゃない状況に、俺も慌てて駆け寄った。
「菜子、ほら。お前の好きなサクサククッキー買ってきたぞ」
「っ、サクサク!?」
「そうだ。だからペッするんだ」
「……ペッ」
クッキーをエサにして促すと、やっとペッをしてくれた。はぁ、良かった。
「しかし、何で笹を食べてたんだ?」
「これー。パンパ、モグモグ」
「パンパ?」
菜子が無邪気に持ってきたのは――昨日買ってあげたばかりのパンダの絵本。
なるほど。菜子のいう『パンパ』とは『パンダ』のことか。
「パンパ、モグモグ。なこも、モグモグ」
「そうか。菜子はパンダが好きか。だから一緒にモグモグしてたんだな」
「おとーさー。パンパ、かあいーねー」
「うん。確かに可愛いけど……菜子はサクサクをモグモグしような」
「あーい」
――それから十数年後。
「ふーふーふーふーふーふふふーん♪」
仕事から家に帰ってきたら、菜子が七夕の歌を鼻で歌いながら、笹に飾りつけをしていた。
「お父さん、おかえりなさーい」
「ただいま。おー、笹がキレイだな」
「えへへ、でしょ?」
「……菜子」
「なぁに?」
「笹は食べちゃダメだぞ」
「へぇっ!?」
あの時のことを覚えていたのか、そばで聞いていた俊光と美都子が、同時に吹いた。
「お父さん! いくら私でも笹まで食べたりしないよぉ! 『パンダ』じゃあるまいしっ!」
今のには俺もたまらず吹いてしまい、二人は更に爆笑。
「お前がそれ言うなよ。元・パンダのクセに」
「俊光君っ、『元・パンダ』って何!? 私はずーっと人間なんですけどっ!」
「けどねー菜子。あんたには前科があるのよ?」
「お母さんまでっ。ていうか、それどういうことぉ!?」
はははっ、やれやれ。我が家の七夕は、今年も賑やかだな。
―おわり―

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