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自殺紳士

第13章 Vol.13:孤独の駅

しかし、なぜだか力が入らないで
私は、ガクン、膝から崩れてしまった。

青年が、手を貸し、私を引き起こしてくれた。
 その手が、温かい、と、そう思った。

ゆっくりと、青年は私を立たせてくれた。

「大丈夫・・・ですか?」
じっと目を見られる。

「あ・・・」
タスケテ・・・
 と口をついて出てきそうになる。

馬鹿な・・・
 何を、助けてもらおうというのだ
 知らない人に
 なんの義理もない、人に・・・

自分ですら、何を求めているのか、わからないでいるのに・・・

電車が滑り込んでくる。

終電は空いていて、
 席はまばらにしか埋まっていない。

この手を離して、あの電車に乗って
 いつものように、家に帰らなくちゃいけない

一人の家に、帰らなくてはいけない

なのに・・・

青年の手が温かくて
 その真摯な視線から、目が離せなくて

終電が出てもまだ、私はそこから動けなかった

「よかったら、少し、話しませんか?」
青年が言った。

そして、困ったように、視線を泳がせて

「終電、行っちゃいましたし」
そう言い添えてくれた。

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