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キセキ

第1章 Vol.1〜最期の手紙

「これ、あの娘の…」
「そう、手紙
 10年ぶりに部屋を整理していたら出てきたんだ
 あんたへの手紙だよ」
女は言った

「別に届けてやる義理はなかったんだけど
 あの娘の気持を考えてさ・・・
 ホント、苦労かけやがって
 あんた見つけるのに5年もかかっちまったよ」

「なんだよ、なんだ・・・
 もうキセキは起こっていたんじゃねえか」
男は膝をついた
涙をボロボロと流し
両の手で顔を覆い空を仰いだ

「カミサマよう、カミサマ
 こんなどうしようもねえ男の願いまで聴いてちゃ
 忙しくて敵わねえだろうよ」
男は声を震わせ泣いた

「ありがとう・・・ありがとう・・・」
「あの娘はさ、
 生きてるときにはそんなこと一言も言っていなかったのに
 その手紙には、あんたに会いたいって
 会って、新しい学校の制服を見せるんだって
 吹奏楽部で吹けるようになった
   フルートを聞かせるんだって
 数学が苦手で教えてほしいって
 ・・・あの娘はとうの昔に
 あんたを許していたんだ
 私が、あんたを許せなかっただけで
 あの娘は、あんたを許してたんだ」

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