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コーヒーブレイク

第1章 日常が壊れるとき

タイミングよく二年生の書記と議長が生徒会室に来たので、30分休憩してくると告げて、私と久美は退出した。

行き先は近隣公園。

滝見女子高は三方をバス路線に囲まれた官庁街にある。
そのためか敷地は狭い。
体育祭に市営グラウンドを借りるといえば、想像つくだろう。
その狭さゆえに、この近隣公園は重宝した。公園と名乗るが、かなり広い。

節度さえ守れば、昼休みや放課後に羽を伸ばしに来るのも認められていた。教師も喫煙に来たりする。

私は、自動販売機で買った缶コーヒーを、先にベンチに座っている久美に投げ渡した。投げてもらったほうが美味しく感じるのだという。
「いただきます」
一日交代でおごりあっているのに、律儀に礼を言う。
私も隣に座る。
プルタブを開けるのは、久美はひと呼吸遅れる。それも礼儀のつもりらしい。
もちろん、飲食は校則違反ではない。

梅雨の晴れ間。

高校3年女子は話題に事欠かないが、とりあえず無難なものでいくことにした。。
「あれ、うちの生徒達よね」
公園の遠い隅にいるジャージ集団を指さして、言ってみる。
ジャージの色で学年がわかる。一年生が十人ぐらい。二人だけ二年生がいる。
彼女らはダンスの練習をしているらしい。
「『恋』ダンスの練習。ブラバンだな」
久美の返事は意外だった。
ブラスバンドの定期演奏会では、全曲を全員でやるわけではない。一年生など、ステージに載れないメンバーも多い。
そういうメンバーは、ダンスや寸劇で盛り上げるのだという。
二年生はインストラクターだろうか。
「よくわかったけど、近所から苦情は来ないかしら」
「あれくらいで来るもんか…………でも、あれは来るな」
久美の言う二回目の「あれ」は、赤い自転車の女子高生だった。うちの制服だ。
公園に乗り入れてきた彼女は、スマホを見ながらの下向き、片手運転だ。まだ遠いが、それはよく見えた。

その行く手に生徒会長と風紀委員長が待ち受けているのに……気がついていない。

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