テキストサイズ

リニエンアナザー

第1章 クロタネソウ


更に腰へ回した彼の腕に力が入り、千種は胸板に顔を押し付けた体勢になる。

「ん……っくるしっ」

「ああ本当、千種はちっさいな……」

「黒谷、私っ」

「千種だけなんだよ。ほら、触れるとねこう……震える相手って」

確かに指先が、肩が震えていた。
自分より大きな彼が震える様子に、迫り上がる感情が抑えられない。
大胆な癖にと思いつつ、黒谷の仔犬的な弱々しさに得もいわれぬ愛おしさを感じた。

「千種?」

「あ、ごめ……っ」

うっかりとその背に腕を回してしまった千種。
腰から移動していた黒谷の手に肩を抱かれ自身の行動に信じられない気持ちと、羞恥から離れようとする。

「この雨音だから、そんな簡単には気付かれないよ」

「やだっちがうの……っ」

頭を振りながら引っ込めた肘を曲げ、胸元を押しても頑として動かない。近過ぎるこの距離感から逃げ出したいのにと、服の中で汗が流れ落ちた。

「何してんの?」

なんて、瞳を細め苦笑すら浮かべる黒谷に千種は見上げるし事しか出来ない。

固まる彼女を見下ろしながら親指を眉尻から、赤く染まる耳朶へ触れる。

ゆったりと耳の形を確かめると、凹んだ部分を辿った。


ストーリーメニュー

TOPTOPへ