
リニエンアナザー
第1章 クロタネソウ
数日が経った放課後の玄関前。
雨音が開け放たれた扉を叩いていた。
閑散とした一階は別世界のようで、少し心許ない。
重い足取りで階段を下りた先の廊下に見知った後ろ姿を見付ける。
黒谷だ。
千種は透かさずその背中へ声を掛けていた。
「ねえ黒谷ってば、待って」
「千種……なに?」
何か用事があるのかとでも言いたげに、冷ややかな目線を落とす。
口許に当てていた彼の指がネクタイを緩める仕草に、千種もまた息苦しさを感じてしまう。
深く息を吐く様子が心底面倒だと語っている様に見えて、組んでいた指に力がこもった。
「あ、のね聞いたよ。出来たんだね、彼女」
「……え?」
一瞬彼の瞳が見開き、さらに揺れたような気がした。
もしかして、噂は人違い?
千種の中で持ち上がる淡い期待と早まる心臓。
こめかみから汗がじわりと浮き立つ。
「一緒に帰れないって、そう言う意味だったんだ?」
「それは……」
「……」
言い淀む黒谷に、期待が崩れた瞬間だった。これはもう決定的だと千種の瞳から光が消えていく。
それでも黒谷の口から事実は聞きたくない。
彼女はそっと唇を噛んだ。

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