
リニエンアナザー
第1章 クロタネソウ
言葉の意味が理解できないままの千種は、腰へ手を回されたのに数秒遅れて気付く。
そのまま掬うように引き寄せる黒谷の行動に驚き、彼の顔を見上げた。
「やっと、目が合った」
「あっ……やだ、見ないで」
「千種?」
「やっ黒谷……っ」
久しぶりに彼の朗らかに笑う顔を見たからか、千種の体温は一気に上昇してしまう。
顔を背ける仕草を阻止する黒谷。千種の前髪を掻き分けると、額を撫で上げた。
「ね、聞いて。試合近いの知ってるだろ?今、部内ピリ付いてんだよね」
「あ……うん」
そう言えば、彼は強豪サッカー部……。
忘れていた訳ではないが、改めて凄いなあと千種は他人事とばかりに意識を雨音へ移す。
「そ、しかも今年は女と必要以上の接触も禁止なんて言われてさ」
一緒にいると千種自身が何言われるか分かんなかったし……、そう眉間に皺を刻んで吐き出すように呟いた。
「え私?そんなのは全然構わないけど……」
「いや、それはこっちが構うやつだから」
右手で両目を覆うと、上を向く黒谷。
その伸びた首筋から仄かに香る清涼剤に甘い眩暈を起こしそうだ。
千種は平静を保とうと、彼の服を引っ張る。
「待って、帰れないって理由がそれなの?……彼女は?」

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