
リニエンアナザー
第1章 クロタネソウ
「ああ……」
ふうと深い息と共に吐き出されたのは、低い声だった。
やっぱり、聞かなければ良かったかもしれない。
黒谷の作る間に、沸き上がった焦燥感。それは千種を不安にさせるばかりだ。
「それなんだけど、妹なんだ。先輩の」
「い、もうと?」
「ん、先輩の」
千種の復唱にゆっくりと答えた黒谷。
「……先輩?」
「そ、部の先輩。本当に、厄介な人だよ……はあ」
項垂れ頭を落とす黒谷を見つめた千種は、本気で嫌そうだと悟る。
本の少しだけ掴んだ服の裾だったけれど、思わず離してしまったのを後悔した。
今なら届くのに。
辛そうな彼を支えたいのにと、千種は一歩の勇気を踏み出せない自分の歯痒さを恨んだ。
「厄介って?」
「て言うか、理不尽かな。女遮断しろなんて言っておいて、自分の妹とくっつけようとしたり」
「それは、うん。災難だね……」
「だろ?何度か会って欲しいって、せがまれてさ。一度だけ会ったんだよ」
駅だったからその時見られたのかなあと、黒谷は首を傾げる。
「何で噂になってるのか意味不明だし、そもそも千種には関係無いよな?」
「関係、ない……」

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