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クラスの人気者は、刹那の2時間を買い戻したい。

第15章 個別補習&カテキョ

木曜:古典/藤代雅人(55)

「失礼しまーす」

刹那が個別指導室に入っていくと、頬杖をついて居眠りしている初老の男、藤代。

「……あ、やっと来たね。……白瀬刹那くん」

「はい、よろしくお願いします」

「古典は嫌いですか」

「ん〜、意味分からない?」

藤代はほっほっほと笑いマグカップのお茶を一口飲んだ。

「皆んなそう言います」

「……」

「私もね、学生の頃は古典好きじゃありませんでした」

「マジか、じゃあなんで古典の先生やってるの?」

「いい質問です。私ね和服が好きなんですよ」

「はぁ」

「白瀬刹那くんは和服着たことありますか?」

「たぶん、無いです」

「和服はね、不便なんですよ」

「ん?」

藤代は眼鏡越しに刹那を観察するようにみている。

「現代人はなんでも早ければ良いと思っている。和服は確かに不便です。走れないし、階段も気を遣うし、電車に乗るだけでも疲れる」

「もう、着る意味無いじゃん」

「その代わり自然と動きが丁寧になる。心に余裕ができる。千年前の人たちも忙しかったでしょう。でも、今より少しだけ、自分の気持ちを眺める時間があったのかもしれません」

藤代はどこか遠くを見ているような視線で薄く微笑んでいる。

「白瀬刹那くんは恋をしていますか?」

「えぇっ、急になんですか……」

「和歌には恋愛の歌が多いのです。君に合う歌も見つかるかもしれない」

「オレは別に……」

「忍ぶれど 色に出でにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで」

「なんすか?」

「宿題です。現代文を調べてきてください」

藤代はのんびりとお茶を啜っていた。

「じゃあ、オレからも一つセンセにお願い」

「お願い、なんでしょう」

「今度、学校に和服で来てよ」

藤代は重く下がっている瞼を見開いていた。

後日。
刹那の言葉を間に受けて和装で登校した藤代。

最初は教諭にも生徒にも変な目で見られていたが、ある時を境に一部の生徒に声を掛けられるようになる。

「教師生活三十年……初めて女子生徒に褒められました……」

隣のデスクに座っていた皐月は歓喜に震えている彼にこう伝えた。

「藤代先生、こんど白瀬くんにお礼を言わなくてはいけませんね」

「ほぉ、確かに彼がきっかけをくれたといっても過言ではないですな」

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