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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第1章 柳家の娘

「あんたの言うように、俺は確かに若造だけど、これでも古くからの知り合いやダチは四方にいるもんでねえ。あんたがあんまりやりたい放題に阿漕なことをやってくれてると、同業の俺たちも良い加減、迷惑するわけよ。眼立ちすぎると、役人の眼にも止まるからさ。あんたが欲を出しすぎたせいで、俺らまで巻き添え喰っちまっうってのは、どうも割に合わねえしなぁ。俺が今日、あんたのやったことを仲間にこれこれしかじかと教えてやりゃア、あんたはもうここいらで二度と商いはできなくなっちまうと思うが? それでも良いのかい、おっさん」
 最後の部分だけは、まるで地の底から這い上がってくるような低い声で囁かれ。
 小柄な露天商は気の毒なほどに青褪め、縮み上がった。
「お、お前がもしかして、あの光王(カンワン)か?」
 露天商の声が上ずるのに、若い長身の男は余裕の笑みで応えた。
「俺の名前なんて、この際、どうでも良いさ。さあ、俺の言うことがよおく判ったら、これからは真っ当な商売をするんだな。マ、欲を出すなら、ほどほどにね」
 男はこの場に相応しからぬのんびりとした声で言うと、くるりと振り向いた。
「お嬢さんもとんだインチキ野郎に出くわして、災難だったな。あんないかにも安物にそれだけの値段を払う気もさらさらねえだろうし、あんたももう大人しくお屋敷に帰りな」
 男の姿が眼に入った瞬間、春泉は眼を瞠った。
 何と美しい男だろう! 彼女は今まで、これほどまでに美しい男、いや、女性も含めてにしても、美しい生きものを眼にしたことがなかった。
 つやつやと輝く髪が陽の光を受けて黄金色(きんいろ)に波打っている。その髪を結いもせず無造作に背中でひと括りにし、濃紺のパジチョゴリを身につけている長身の身体は先刻見たとおり、きりっと引き締まっていた。
 よくよく見ると、金色に見えた髪は茶褐色で、瞳の色も髪と同じで茶色―榛色にも見えた。陽に灼けた精悍な貌にはすっと切れ上がった双眸がくっきりとした輪郭を描き、整った鼻梁から形の良い唇とどれもが配置よくついている。男に美しいとはいうのが適切な表現かどうかは判らないが、とにかく、神仏か、はたまた妖の化身かと思ってしまいそうなほど恵まれた容姿をしている。

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