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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第6章 祝言の夜

 むろん、春泉の乳母オクタンは一緒であり、屋敷に全く男手がないというのも不便であり不用心でもあったことから、それまで仕えていた二人の執事のうちの若い方が引き続き仕えることになった。
 とはいえ、チェギョンがこの忠実無比な二人の身分をも上げてやったことは言うまでもない。今までどおり柳家には仕えても、オクタンと執事はもう隷民ではなく、仕える主と同じ身分、常民になったのだ。
 オクタンは春泉にとって実の母よりも信じられる相手だ。春泉の醜い容貌は美貌で知られる母とは、似ても似つかない。色の浅黒いところも、狐のようにつり上がった細い眼も父に生き写しであった。
 そのせいかどうかは知らないが、母は春泉に冷たく、よそよそしかった。物心ついてから、母が春泉に心からの笑顔を見せたことも、〝おいでなさい〟と優しく抱きしめてくれたことも一度たりともない。そんな母に代わって春泉を育ててくれたのがオクタンであった。
 新しい屋敷に引っ越した後でも、母とのこの疎遠な関係はたいして変わってはいない。とはいえ、二人だけでいて、話し込むことはないにせよ、以前のような気まずさがなくなっただけでも大きな進歩といえるだろう。
 それでも、春泉は以前のように、母のすべてを否定しようとは思わなかった。父が亡くなってから、母は愛人たちともきれいに手を切ったらしく、小さな屋敷で慎ましく暮らしている。時折、友人が訪ねてきたり、逆に母が訪ねていっているが、昔のような華やかな暮らしぶりが嘘のように落ち着いていた。
 もっとも、母の友人たちの大半は、柳家の豊かな財力を当てにして、蝶が甘い蜜に誘われるように集まってきた欲深な人たちばかりだったから、今も付き合いが続いているのは母の本当に気心の知れた友人なのだろう。
 その点、世間は無情というか、呆れるほど変わり身の早いものだ。父が生きていて羽振りの良かった頃には機嫌を取るようにすり寄ってきた連中は皆、手のひらを返したように離れてゆく。〝悪人の柳千福なぞ、殺されて当然〟としたり顔で話している。
 言いたい者たちには言わせておけば良い。
 春泉は割り切っている。
 それよりも、彼女が愕いたのは母の変わり様であった。ひと月に袖を通せないほどの衣服を仕立てていた人が今では控えめな色合いのチマチョゴリを着て、刺繍や読書にいそしんでいる。

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