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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第6章 祝言の夜

 朝鮮人には珍しい黄金色に輝く髪と蒼い瞳の男。光王だ。〝一緒に来い〟と最後に別れる間際、手を差し出した男。
 じっと心の奥底まで見極めようとする秀龍のまなざしは、先刻までと違って、鋭かった。
 これが義禁府の期待の星と呼ばれる皇秀龍の本当の顔なのだろう。
「本当なのか?」
 念を押すように訊ねられ、春泉は頷いた。
「嘘じゃありません」
 面目ないと思いつつも、声が震える。
 春泉はけして怖がりでも気が弱いわけでもなく、どちらかといえば、勝ち気な少女だ。なのに、秀龍の厳しさを宿した瞳に見つめられていると、身体が震え、涙まで滲んできた。
 と、ふいにいっそう強く抱きしめられ、唇を塞がれる。
「あっ?」
 咎めるような口づけは一瞬で終わったが、気がついたときには、褥に押し倒されていた。
 あまりの速い展開に心がついてゆけない。
「秀龍さま、何を―?」
 潤んだ瞳で見上げた春泉に、秀龍が一見、優しいとさえ思える笑みを見せた。
「そなたは嘘を言っているな」
 偽りの優しさの中に見え隠れする酷薄さをちらつかせ、秀龍は春泉の髪をそっと撫でた。
「そなたは男というものを何も判っていない。暴走する男を止めようとするときに、そのような眼で一途に見つめれば、男が余計に燃え上がるとは思わぬのか?」
 秀龍の声が掠れているのが欲望のせいだとは知らず、春泉は怯え切った瞳で秀龍を見つめた。
 この男の言っている科白の意味が判らない。どうすれば良いの、どうすれば―。
 混乱の気持ちが余計に眼尻に涙を押し上げてくる。
 オクタンはどこにいるの? オクタン!!
 いつだって春泉が助けを求めれば、すぐに駆けつけてくれた優しい乳母は、今、この寝室からは離れた女中部屋で寝んでいるはずだ。
 皇家に嫁した後は、オクタンは別に独立した部屋を与えられることになっていた。部屋といっても、庭に一戸建ての小さな家のように建っている、女中が使うには丁度手頃な室である。
 一部屋だけの簡素なものだが、広さも一人で使うには十分あった。

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