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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第6章 祝言の夜

 夜着の前が開かれ、ひんやりとした夜気が剥き出しの素膚に触れる。秀龍は更に容赦ない荒々しさで、春泉の胸に巻いた布を解いてゆく。いや、最早、その乱暴な仕種は、解くというよりは引き裂いてゆくといった方がふざわしかった。
 夜気の冷たさに思わず身震いした刹那、生温い感触に乳房の先端を呑み込まれ、春泉は悲痛な声を上げた。
「いや、誰か、来てっ。オクタン、助けて!」
 涙で霞んだ瞳に、胸に覆い被さる秀龍の黒い頭がぼやけて見えた。
 光王は、こんなことはしなかった。口では春泉を赤面させるような際どい科白を平然と口にしながらも、けして実際には彼女に触れようとはしなかったのだ。
 なのに、初めは鷹揚で優しげな態度を見せていた秀龍がまるで獣のように春泉に襲いかってきた。
「オクタ―」
 乳母の名を呼びかけた春泉の口が大きな手のひらで覆われた。
「うぅ―」
 春泉は大粒の涙を零し、いやいやをするように首を振る。
 両手を縛(いまし)められ、口を塞がれ、自由を奪われた拘束状態で身体を無理に開かせられる―、まるで、これでは手籠めにされるのも同然ではないか。
 ひどい、こんなのはあまりにひどい。とめどなく溢れてくる涙が豪奢な絹の褥を濡らしてゆく。
 そのときだった。ニャーと小さな鳴き声が聞こえたかと思うと、トコトコという軽やかな脚音が近づいてきた。
 秀龍がハッと息を呑み、顔を上げる。
 つられるように、春泉もまた、そちらに顔を向けていた。
「小虎(ソチェ)」
 消え入るような呟きが洩れる。
 既にその時、秀龍の手は春泉の口から放れていた。
「小虎、小虎」
 ふいに現れた猫は春泉の顔の傍まで歩いてくると、ミャーとひと声鳴く。しゃくり上げて泣く春泉の頬を慰めるように猫は舐める。
「―春泉、済まない。私としたことが、何という浅はかなことをしてしまったのか」
 秀龍は呟くと、春泉の手を縛っていた紐を急いで解いた。

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