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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第7章 天上の楽園

果たして、見る間に春泉の可愛らしい面が曇った。
 コホンと彼はわざとらしい咳払いをして、その場に漂う救いようのない空気をごまかそうと試みる。しかし、それは逆効果となり、かえって二人の間の気まずさを助長することになってしまった。
―この白馬は、一体、何と名付けるつもりだ?
 わざと明るく訊ねると、〝美里(ミリ)〟と短く応えが返ってきた。
―ホホウ、まるで人間の子に付ける名前のようだな。
 しまった、また言ってしまったと後悔するも、果たして、この後は更に沈黙が重かった。
 どうして、自分はここまで抜けてるんだ? と秀龍が自分で自分を心の中で罵った時。
 ミャーと妙に間延びした鳴き声が聞こえ、秀龍は冗談ではなく鳥肌が立った。嫌な予感がする。恐る恐る視線を動かすと、下方には、ちゃんと〝俺も行くぞ〟と主張するように猫が前足をきちんと揃えて座っている。
 かくして、今、その猫こと小虎は彼の何より敬愛する女主人の胸に抱かれ、白馬に鎮座ましましていた。
 それにしても、春泉の乗馬の腕前は女ながら、たいしたものだ。猫を片手に抱いて、もう一方の手で危なげもなく、颯爽と馬を乗りこなしている。その鮮やかで巧みな手綱捌きに、秀龍は〝また、惚れ直しそうだ〟と内心、舌を巻く。
 男に守られてばかりのなよなよとした湿っぽい女より、轡を並べて馬を走らせるような勇ましい女の方が秀龍は好みだ。
 馬に乗るのが好きなのか、生き生きとした良い表情をしている。その見違えるほどの変貌ぶりに、ふいに初夜の春泉の泣き顔が甦る。
 この生気に満ち、若さに輝くばかりの春泉も棄てがたいが、私は、やっぱり、顔をうっすらと上気させて潤んだ瞳の春泉の方が断然良い。やっぱり、色っぽいもんな。
 今の春泉も爽やかな色香があって、これはこれで悪くないが、純白の夜着に豊かな身体を包み、伏し眼がちにうつむいている春泉には予想外の匂うような色香が漂い、男なら思わず手を伸ばしたくなってしまう。
 たっぷりとした乳房の薄桃色の先端がわずかに透ける夜着の下から布地を押し上げているのが夜目にもはっきりと見え、それから―。
 秀龍が思わず、ゴクリと唾を飲み込んだその時、ニャーと甘美で退廃的な妄想には不似合いな鳴き声が彼の心躍る夢のひとときを台なしにする。

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