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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第7章 天上の楽園

 幾ら止めても、秀龍は言うことをきかなかった。春泉は仕方なく女中を呼び、酒肴を用意するように頼んだ。ほどなく若い女中が萌葱色の掛け布で覆われた小卓を運んできた。
 女中がまだ小卓を運び終えない中に、秀龍がいきなり春泉を抱き寄せた。
 ―かと思ったら、次には急に視界がふわりと浮いた。
「旦那さま!?」
 秀龍は人眼もはばからず、春泉を抱き上げて膝に乗せたのだ。
 見たところ、女中は春泉とほぼ同年のようだ。よく躾けられているらしく、小卓の上の掛け布を手早く取り去ると、後は伏し目がちになって、秀龍と春泉の方は見ないようにして後退(あとずさ)りで部屋を出てゆこうとする。
「私は漢(ハ)陽(ニヤン)一、いや朝鮮一の幸せ者だな。このような可愛い魅力的な妻を傍に置くことができるのだからな。春泉、そなたもまずは呑め」
「私はお酒が飲めないのです」
 それは嘘ではない。母チェギョンは女ながらもかなりの酒豪だが、春泉はまだ、まともに酒一滴も呑んだことはないのだ。祝言のときの夫婦固めの盃さえ、ほんの少し形式的に唇を当てただけだった。
「フム、それはいかんな」
 秀龍の眼が据わっている。常よりも更に強い光を湛えた瞳で見つめられ、春泉は身を竦ませた。
「旦那さま、お願いです。降ろして下さいませ」
 懇願してみても、秀龍は異様に底光りする眼で春泉を見つめているだけだ。
 ふいに、秀龍の手が伸び、春泉の腰から臀部をそろりと撫でた。
「―!」
 春泉はあまりのことに、声すら出なかった。彼女が無抵抗なのをどう思ったのか、秀龍の大きな手のひらが春泉の尻を幾度も行ったり来たりする。
「止めて下さい! 何をなさるのですか?」
「煩いな、静かにしていなさい」
 秀龍の手は次第に遠慮がなくなり、しまいには春泉のチョゴリの前紐にかかった。
「旦那さま! お止め下さい!!」
 だが、秀龍は頓着せず、紐を解いてゆく。
 このままでは、また、祝言の夜と同じことになりそうだ。春泉は背後を振り返った。
 先刻の女中が今しも部屋を出てゆこうとするところだ。

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