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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第7章 天上の楽園

「―お願い、助けて」
 春泉が救いを求めるように訴えると、若い女中は戸惑ったように春泉を、それから秀龍を見た。
「ここはもう良いから、下がれ」
 常の彼であれば考えられないような、ぞんざいな言い方で命じられ、女中は慌ててペコリとお辞儀して扉を閉めて出ていった。
 ああ、行ってしまった。
 春泉は絶望的な想いに突き落とされた。
 紐を解き終えた秀龍は、春泉からいとも簡単にチョゴリを剥ぎ取ってしまう。
「いやっ、止めて」
 胸に布を巻いただけの無防備な姿となり、春泉は頬を染め、胸の前で両手を交差させた。
 また、あの眼だ。穏やかな秀龍には似合わぬ烈しさを秘めた視線が春泉の胸の辺りにひたと据えられている。
 幾ら隠そうとしても、豊かな胸のふくらみが布を押し上げ、谷間がはっきりと見えていた。
 秀龍の双眸に宿る烈しさがいっそう強まり、春泉は無意識の中に身を震わせた。
 怖い、秀龍さまが怖い―。
 どうして、どうして、いつもこんなことになってしまうの? 
 何故、秀龍は春泉を苦しめようとするのだろう?
―私が秀龍さまを傷つけてしまったから?
 昼間、天上苑で春泉が言った言葉にまだ怒っているからだろうか。
 溢れてきた涙を瞼の裏で乾かした。
「姦夫の名前を申せ」
「え?」
 突如として放たれた言葉に、春泉は小首を傾げた。
「姦夫?」
 言葉の意味を計りかねた。
「虫も殺さぬような可愛らしい顔をしていながら、その無邪気さで私を騙そうというのか? 判らぬというのなら、はっきりと教えてやろう。情夫とでも申せば、判るかな」
 秀龍が吐き捨てるように言う。
「情―夫」
 流石に、春泉にも今度は彼の言いたいことてが理解できた。
「旦那さまは私に情夫がいると―私が他の殿方と情を交わしているとおっしゃるのですか?」
 あまりの屈辱と誤解に、唇が戦慄く。
「何度も申し上げますが、私にはそのような方はおりません」

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