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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第7章 天上の楽園

 春泉はきれいな身体だった。彼の指をきつく締め上げ、纏いついてきた薄桃色の襞は、春泉が処女であることを示すと共に、彼女を本当に彼のものにしたときの心地良さを何より期待させる。
 あのように素晴らしい身体を持つ女がいるのか、と秀龍は感銘と賛嘆に近い感情さえ抱いた。
 身体のことは予期せぬ幸運であったが、そのことを抜きにしても、春泉は十分魅力的だ。生き生きと輝く黒い瞳も、冴え冴えとした涙の雫を宿した瞳も、すべてが彼を惹きつけてやまない。
 あの瞳に吸い込まれ、溺れてしまいたい。そう思わずにはいられなくなる。
 秀龍を怖がりながらも、時折、覗かせる負けず嫌いなところも悪くはない。もし、あの娘と心身共に結ばれる真の夫婦となれば、自分は妻の尻に敷かれる恐妻家になるのは間違いない。春泉は、彼が想像している以上に、勝ち気な少女かもしれない。
 だが―、本当にそんな日が来るのだろうか。
 昼間、天上苑に春泉を連れていったのも、むろん、彼女と二人だけになりたいという下心はあるにはあったが、いちばんの目的は彼女を歓ばせてやりたいと願ったからである。
 確かに、あの時、春泉は嬉しそうに瞳を輝かせていた。
 なのに、自分が天上苑に纏わる伝説などを話したばかりに、春泉は急に塞ぎ込み、挙げ句に、亡くなった伝説の娘が自害したのは、二人の求婚者のどちらをも同じくらい恋い慕っていたのでは―などと言い出して春泉と秀龍の間の風行きが妙なことになってしまった。
 秀龍は重い息を吐き、首を振る。
 判らない。春泉は確かに清らかな身体だった。あの身体は間違いなく、男を知らない。堅物だと思われている秀龍だが、女性経験が全くないというわけではないのだ。その程度の区別はつくし、女体についての知識もそれなりにはあった。
 だが、春泉が心に誰かを―恐らくは男―を棲まわせているのは間違いない。
 ブラ(心)トニック(だけの恋愛)なのかもしれないが、肉体関係はなくとも、恋愛はできる。いや、むしろ、身体の関係なぞない方が、いっそう相手を純粋に恋い慕えるようになるはずだ。
 それは、たとえ秀龍が春泉を無理に奪ったとしても、身体だけのことで、心までは奪えないのと同じ道理だろう。

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