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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第7章 天上の楽園

 春泉の心を盗んだ男は一体、どこの誰なのか。
 またしても姿の見えない男に嫉妬しそうになり。こんなことでは、また、春泉に無理強いして泣かせてしまいかねない。
 秀龍は自分にほとほと愛想が尽きそうになる。このときには、あれほど身体中に回っていた酔いもすっかり醒めていた。



 秀龍が一人、果てのない自己嫌悪に浸っていた丁度同じその頃。
 春泉はオクタンの部屋にいた。
 オクタンはその夜だけは、春泉を主人というよりは、まるで自分の娘のように扱った。まず着ていた衣服を脱がせ、清潔な夜着に着替えさせてやった。
 四月もそろそろ下旬に差しかかった頃ではあっても、夜は冷える。それでなくとも、春泉は先刻味わった恐怖のせいで、ずっと身体を瘧にかかったように烈しく震わせていた。
 秀龍に執拗にまさぐられた部分がしきりに痛みを訴えている。春泉は下腹部をそっと押さえ、不安げなまなざしで乳母を見た。
「オクタン」
 痛む場所が場所だけに、言いかけて口にはできず、口ごもった。
「―とても痛いの」
 やっとの想いで言ったのだが、オクタンはすべて心得ているようだ。春泉を安心させるように微笑みかけた。
「大丈夫でございますよ。しばらくは痛むかもしれませんが、少しずつ治まって参りますからね」
「そうなの?」
 春泉は恥ずかしさにうつむきながら、また新たに瞳に涙を滲ませた。
 薄い夜着だけでは心許ないと、部屋の粗末な箪笥から自分のチョッキを出してきて、更に上から羽織らせた。
「お嬢さま(アガツシ)、どうぞ。お嬢さまのお好きな蜂蜜湯ですよ」
 その頃には、この部屋に連れてきても、ずっと泣き通しだった春泉もやっと泣き止んでいた。
「ありがと、オクタン」
 春泉は子どものように鼻を啜り、オクタンの持たせてくれた湯呑みを両手で包み込む。

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