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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第8章 夫の秘密

「あの娘は私より一つ年上ですが、無口な分、気もよくついて働き者です。私がそっと教えてやれば、今度からは、そのようなことはしないと思います」
 口だけではなく心から言うと、チェギョンは美しい面に笑みを浮かべた。
 それにしても、と、春泉は眼前の母を見て、嘆息した。
 我が母ながら、何という臈長けた美しさだろう! チョゴリは白、チマは紺色といった至って地味な色合わせでありながら、さりげなく身につけている翡翠のノリゲが落ち着いた雰囲気に華を添えている。
 控えめな地色がかえって母の匂い立つような妖艶さを際立たせており、美しく化粧した面は春泉と並んでも親娘というよりは姉妹に見えるのではと思ってしまうほど、若々しい。
 耳に揺れる翡翠の耳飾りは、ノリゲと合わせたのだろうか、時々、さりげなく手をやって触れている。
 春泉は我が母ながら、誇らしい想いで眩しく母を見つめた。
「どうしたのですか? 私の顔に何かついていて?」
 まじまじと見つめる春泉に、チェギョンがおかしそうに訊ねてくる。
 春泉は思ったままを言った。
「お母さまはいつも変わらずお美しいなと思って。久しぶりにお逢いしたら、見惚(みと)れてしまいました」
 愕いたことに、チェギョンは声を立てて笑った。
「親をからかうものではありませんよ」
 春泉は母の晴れやかな笑顔に今更ながら、愕いていた。母がこんなにも屈託なく笑うのなんて、初めて見る。
「あなたの方こそ、逢う度に、美しくなってゆくようですよ? 同じ家に暮らしているときは、なかなか口にする機会はありませんでしたけれど、ここ二、三年で、あなたはぐっと綺麗になりました。日毎に美しくなってゆくあなたを見て、私は内心、お慕いする方でもできたのかと心配していたくらいですから。その点では、きっと、こちらのあなたの旦那さまもご満足して下さっていると思っているのだけれど、それはあまりに親馬鹿すぎるというものでしょうかね」
 生まれて初めて聞く母からの褒め言葉に、春泉の頬が熱くなる。
「わ、私はお母さまのように美人でもないし―」
 口ごもる春泉に向けられた母のまなざしは限りなく優しかった。

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