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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第8章 夫の秘密

 滅多に感情の揺れを表に出さない母には、これも珍しいことだ。何が母の心をああまで揺さぶるのか、知りたいと思う気持ちももちろんある。だが、娘の自分がそこまで母の心に踏み込んでゆくべきではないし、春泉にも光王という誰にも話せない想い人がいる。
 ならば、母は大人の女性なのだから、自分などの子どもよりは更に多くの他人には話せないこと、知られたくないことがあって当然だ。
 春泉は即座に判断し、その事については、もう触れなかった。
 しばらく母娘の間には静寂が流れた。
 コホンと咳払いが聞こえ、チェギョンが沈黙を破った。
「今日、訊ねたのは、あなたに聞きたいことがあったからなのです。訊きにくいことを訊きますが、旦那さまとはどうなっているのですか? 本当に夫婦仲に問題はないのですね」
「お母さま、それはどういう意味ですか?」
 意外な話の展開に、春泉はまたたきして母を見つめた。
 チェギョンが優しい笑みを浮かべる。
「あなたももう年端もゆかぬ子どもでもないのだから、私が何を言いたいかは判るでしょう? 閨の事はどうなっているのかと訊いているのです」
「それは―」
 春泉の顔に朱が散った。母の顔がまともに見られなくなった。狼狽え、うつむくしかない。
「先刻も申し上げたように、旦那さまはお優しい方ですので、何の問題もありません」
 良人秀龍とはいまだに褥を共にしてはいない。だが、母はその事実を知らないのだ。声が震えないようにするのが精一杯だった。
「夜が待ち遠しいと思うほど、寝所で旦那さまにお逢いするのが愉しみですか?」
 大胆な母の物言いに、春泉は、えっと悲鳴に近い声を上げ、更に赤らんだ。
「それは、―そのう」
 最早、言葉も出なくなってしまった。

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