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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第8章 夫の秘密

「夫婦仲に問題ないというのなら、子宝には期待しても良いのですね? 春泉、このようなことを言うと、かえってあなたの負担になるかもしれませんが、これは大切なことなのです。良いですか、あなたの旦那さまはこの皇家のただ一人のご子息であり、跡取りです。こちらのご両親も恐らく、一日千秋の想いで初孫の誕生をお待ちでしょう。一日も早く皇家の世継を産むことがあなたに課せられた使命であり、あなたは今はそのことだけを考えなさい」
 母は春泉を責めているわけではない。心から春泉の身を思っているからこその言葉なのだ。
 嫁しても子の産めない嫁が婚家でどれほど辛い立場に立たされるか―、殊に両班家では高貴な血筋を残し、次世代へ名門の血脈を繋いでゆくことこそが嫁いできた女の第一の務めなのだ。
 春泉は涙が出そうになり、慌てて眼を伏せた。秀龍と春泉は生涯、結ばれない。自分たち夫婦の間に、子どもが生まれるはずがないのだ。
 秀龍はいずれ、誰か別の女を迎えるだろう。子の産めぬ春泉が離縁されるか、もしくは、情けで婚家に居続けられたとしても、側妾を置かねばならない。
 十日前の夜、秀龍に乱暴に扱われた後、春泉は下腹部に鈍い痛みを憶え、それは二、三日は続いた。秀龍は、まだ男を受け容れたことのない春泉の秘所を指でかき回したのだ。それも、複数の指で押し広げるように幾度も捏ね回されたのだから、傷ついて当然だった。
 あのときの彼には、優しさや労りの欠片もなく、ただ春泉を欲望のまま犯そうとしただけだ。彼女にとっては、身体の痛みよりもその方が―心の痛みの方が辛かった。
 それほどまでに酷い仕打ちを受けながら、春泉は秀龍を嫌いにならなかった。いや、むしろ、嫌いになれた方が心は楽かも知れない。けして受け容れられない相手の存在が気になって仕方がないというのは、互いにとって大きな不幸だし、何より春泉にとって、とても苦しいことだ。
 触れられただけで怖くて堪らないのに、嫌悪感よりもむしろ、胸の高鳴りを感じてしまうのは何故?

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