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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第8章 夫の秘密

 部屋にじっとしていても、香月に向かって微笑みかける秀龍の笑顔が浮かんできて、春泉を苛んだ。
 李執事の極秘調査では、秀龍が翠月楼に通い始めたのは、かれこれ半年前のことらしい。つまり、祝言を挙げたときには、彼はもう香月と深間になっていたのだ。
 それにしても、香月という想い人がありながら、秀龍は何故、春泉に触れようとするのだろう。 
 所詮、秀龍も父と同じで、女は欲望の捌け口としてしか見ていないのだろう。秀龍にとっては妓生も妻も同じ、ただ性的な慰みものにするだけの存在なのだ。
 いや、もし、仮に、香月が彼にとって、それだけの存在ではなかったとしたら?
 身体だけでなく心を通い合わせる存在だとしたら、自分はどうすれば良い?
 秀龍にとっては、身体だけが目的なのは妓生である香月ではなく、春泉の方なのだ。
 もしかしたら、私は取り返しのつかないことをしでかしてしまったのかもしれない。
 大切なものが何であるかを見極めようとせず、それが大切だと気づく前に、早々と失ってしまった―。
 秀龍さま、お願いだから、私以外の別の女に微笑まないで。あの笑顔は、春の陽溜まりのような笑顔は私だけのものなのに。
 香月の許になんか行かないで。
 いつものように、私のところに帰ってきて。
 今更、何を言っても、もう遅い。香月の色香に溺れ切っている良人には、春泉の言葉など届きはしないだろう。
 そう思うと、あまりの自分の愚かさと惨めさに涙が出た。

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