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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第10章 予期せぬ真実

 不思議だ。これまでなら、こんな風にあからさまに見つめられたら、怖いと瞬間的に思ってしまうのに、今日は何も感じない。
 春泉の視線に気づいたのか、秀龍が慌てて視線を逸らした。
「―今日の春泉は凄く綺麗だ。いつも綺麗だが、特に綺麗だ」
 そう言ってから、頭に手をやった。
「ああ、こんな話をしにきたわけではないのに。どうも、私は女人の心にはひどく疎いというか、気の利かぬ質らしい。そのせいで、春泉にも随分と迷惑をかけたようだね」
 秀龍は地面に降り注ぐ五月の陽差しに眩しげにまたたきした。
 今の柳邸にも、ささやかではあるが、庭らしいものはある。もっとも、かつて暮らしていた屋敷の庭に比べれば、三分の一どころか、庭ともいえない代物かもしれない。
 それでも、以前の持ち主が丹精していたらしい樹や花たちが眼を折々に愉しませてくれる。
「義母上から、大体のことは聞いたよ」
 秀龍が唐突に切り出したので、春泉は眼を瞠った。
「先刻のように、私がじっと見つめていたときには、春泉は怯えていたんだな。私はそんなに怖い顔をしていたか?」
「えっ」
 春泉は言葉を失った。まさか母が秀龍本人にそこまで話すとは考えてもいなかったのだ。
「いえ、あの、その」
 狼狽える春泉に、秀龍は破顔した。
「良いのだ。別に怒っているわけではないよ。そなたが私を怖がっていたなんて、これまで考えてみたこともなかった。言われてみれば、思い当たる節がたくさんありすぎて、我ながら頭を抱えてしまったくらいだ。私はいつもそなたといるときは、どうしたら、そなたに好いて貰えるか、そなたを笑わせてやれるかとそんなことばかり考えていた。一生懸命になるあまり、かえって空回りしすぎていたのだろう。先刻も申したように、私は根っからの無粋な男だ。女人を歓ばせるすべもない」
 春泉はこの時、覚悟を決めた。秀龍がここまで自分をさらけ出し、心情を吐露してくれているのだ。
 自分もやはり、その〝真心〟に応えるべきではないか、と。
「秀龍さまに私も是非、お話ししなければならないことがあります」
 春泉の瞳に揺るぎない決意の色を見たのか、秀龍は頷いた。

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